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「悪魔の絵本」は、愛の話であるとともに、
作家の話だ。
書くことについての話だ。
文学への愛憎についての話だ。
***
わたしの母の話を少し。
小さい頃に父を喪い、5人兄弟の長女として育った母は、
若い頃から祖母と二人三脚で一家を支え、
本を読む暇などなかったと言う。
音楽を聴く余裕などなかったと言う。
そして、わたしがおなかの中にできた時、
子供には、本を読んだり音楽を聴いたりさせてやりたいと願い、
胎教に、子供文学全集を買って読み始め、
カルピスのおまけでもらった名曲のソノシートを聴き始めたと言う。
で、わたしは、生まれ、
子供文学全集をすぐに読み通して次をねだったし、
ありがたいことに、小さい頃から音楽の喜びを知っていた。
わたしに才能があるかどうか知らないが、母はよく言った。
「あんたの才能、全部ママの胎教のおかげやで!」
それからずっと、文学と音楽に支えられて生きてきた。
救われ、癒され、力づけられた。
こと文学に限って言えば、
心底辛いときには、必ず、その時に読むべき本と出会ってきた。
これはもう、愛してる者の、特権と言うべきか。
必ず、出会ってきた。
文学に、いつも、ありがとうと言いたかった。
そして、今、
作家の話なのだ。
書くことについての話なのだ。
文学への愛憎についての話なのだ。
舞台を通して、
谷さんの言葉を得て、
愛すべき俳優たちの心と体を借りて、
わたしはやっと言えるかもしれない。
「ありがとう」と。
***
今日は稽古休み。
で、稽古場で主人公である作家の書棚を作る。
1日かけて。
これは、本当にわくわくする作業だ。
ずっとやっていてもいい、と思う。
そして、ずっと眺めていたい。
家に帰れば、主人公の著作のブックデザインをする。
これがまたわくわくする。
文学愛、爆発。
文学オタクは眠るのも忘れて架空の書籍を妄想する。
ああ。
文学好き、みんなに見てほしい。
これ、とんでもなく、文学の話だから。
書けなかった。
ただひたすらに、稽古場にいて、
ただひたすらに、芝居のことを考えていた。
今日、3回目になる通し稽古を見て、
これは美しい舞台になると、
心の底で、密やかに、確信した。
わたしの見たかった向こう岸が、
近づいてきた。
いや、わたしの見たかった向こう岸が、
いつの間にか、
みんなの複眼で見る向こう岸になっていて、
思い描いたところよりずっと清らかだったりして、
わたしは目の奥を熱くする。
稽古場にて。
終盤で、
市井紗耶香さん演じる川田希から、
岡田あがささん演じる井佐原茉莉に手渡されるもの。
魂から魂へ手渡される、
ずっしりと重い贈り物。
それを、どうぞ、確かめに来てください。
劇場に。
サンモールスタジオにて、10月1日から11日まで。
このブログをご覧いただいている方々へ。
お願いです。
劇場にいらしてください。
すべての方に観てほしい。
劇場に入ってからの時間が短いので、とにかく稽古場を本番通りに仕込むことにする。
建て込みはほぼなく、とにかく物を飾るセットなので、持ち込みさえすれば形になる。
……持ち込む量は膨大だけれど……。
こうして、トラックを待つ時間、稽古場セットを夢想する。
歌うってことは、本当に、心を解放してくれるな。
心のしくしくする舞台の稽古に明け暮れて、人生の重く苦しい部分に身も心も対面している時に、歌うって行為は、どんなにか、どんなにか、心身を解放してくれる。
確かに、レッドアローでは、気絶するように眠りこけて、行きも帰りも車掌さんに起こされた。
でも、行ってよかった。
そこに歌があるから。
明日から、また心新たに、対面する。
重くても苦しくても、それが生きるってことで、美も醜も、喜も哀も、そこにあって、わたしの記憶を呼び覚ましてやまないから。
眠る前に、わたしはいつも、一日を振り返っている。
だから、なんだかこのところ、マイナーなことばかり書き付けている気がする。
いいこと、よかったこと、自画自賛ポイントは、胸の奥にことりとしまいこみ、
激しく自己嫌悪して、明日への闘志を燃やす、深夜の日誌。
明日、ものすごく久しぶりの稽古休み。
シーンぶつ切りで稽古してきたから、俳優たちは交互に休んでいても、わたしは休みなし。
それが、明日は、一日、少し頭を開放する。
久しぶりに秩父に行くぜ、わたしは。
秩父まで行くのは、ちと遠くて、レッドアローがお座敷列車化してるとすごく疲れるけれど、
あそこで、みんなと歌うのは楽しい。
稽古休みの、気分転換。
体を休めるより、まず、心を休めよう。
明日は、歌おう、思いっきり。
で、14日から、いよいよ固定の稽古場入りする。
ああ、やっと、やっと、だ。
道具を入れて、小道具も衣裳も用意して、
キャストも揃って、ようやく、ようやく、だ。
ああ、14日。
待ちに待った、本格的な稽古の開始。
残された時間はわずか。
でも、稽古場が待ってくれている。
我が家から、引っ越し並に色々を持ち出す予定。
ひたすら歌って秩父から帰ったら、
稽古場への引っ越し準備に明け暮れよう。
そりゃあそりゃあ大変な毎日であるけれど、
妥協を嫌い、人を愛し、突き進む。
毎日、後悔と反省の繰り返し。
わたしは、どうにも不出来な人間。
それでも、隣にいてくれる演出助手に救われたり。
演劇を愛する俳優たちに救われたり。
愛し方の下手くそなわたしは、
いつもいつも、救われてばかりだ。
何をもって、
お返しができるだろう。
そんなのわかりきっていることだな。
わたしはひどい奴だと、
嫌悪して嫌悪して、
その果てに見えてくる、
演劇への忠誠心。
曲げられないものは曲げられない、
でも、愛して愛して愛したおす。
わたしの目の中には、
今日の稽古場で、
俳優たちが見せた笑顔の残像。
涙の連鎖。
嫌悪の果てに、
わたしの愛情が、
生み出そうとしているものに、
救われる。