IN-Project Vol.3「Breath & Beat 呼吸と鼓動の120分」
全5回公演、無事終演いたしました。
おいでくださったお客様に、心より、
「ありがとうございました!」
メニューに沿って、少しずつ回想……。
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IN-1 鼓動を感じる音楽たち
・F.クライスラー 「中国の太鼓」
・J. シベリウス 5つの小品より「ワルツ」
・F.ヴェチェイ 「悲しみのワルツ」
クライスラーは、西谷さんのレパートリー。でも、ワルツは新曲。
このわたしの選曲が、西谷さんは今、とってもお気に入りになっているみたい。
小品ですが、美しい、ふたつのワルツ。
鼓動を感じる幕開けで、わたしは大好きでした。
投影していた二つの映像は、
まるで音楽サロンにかかった絵画のようでしたが、
実は、人間の体内の写真だったのです。
……気づいた人がいたかしら?
IN-2 恋の呼吸
ダンス:酒井亜矢
・ファリャ バレエ組曲「恋は魔術師」から「パントマイム」「火祭りの踊り」
秩父市民ミュージカルで、レッスンや振付でわたしを支えてくれてきた酒井。
今回、はじめて、彼女は演出される人としてわたしの前にやってきて。
わたしは、誰も見たことのない酒井を演出したかった。
凪いだ呼吸と、「もういいよっ!」って言いたくなるくらい荒れた呼吸の狭間で、いつも表現者たる人の時間を描きたかった。
酒井の中の、女を引き出したかった。
激しいリハーサルの末、酒井が本番中に、どんどんきれいになり、どんどん凛としていくのを目の当たりにして、わたしは嬉しかった。
IN-3 オスカー・ワイルド作「ナイチンゲールとばらの花」
ダンス:広崎うらん
朗読:若菜大輔 / 高木拓哉・吉木遼・塩見陽子・石丸さち子
・VI. E.エルガー「朝の歌」
・M.ラヴェル「ツィガーヌ」より
うらんの「わたし、空いてるよ!」が、わたしの「え? じゃあ、出る?」を呼び、思いがけない出演に、「さて何をやったものか?」
かねてからやりたかったオスカー・ワイルド。ナイチンゲールにうらんはぴったりだった。
リハーサルで集まると、あっという間に、見たいもの聞きたいものが明らかになっていく面白い体験だった。即興演出は、準備の量で決まる。しっかり何かを蓄えて行けば、神さまが、進むべき方向を教えてくれるのだと実感。
「朝の歌」が、台詞の尺にぴったりはまるなんて、なんだかもう奇跡のように美しかった。
そして、わたしが何気なく用意した映像が、ナイチンゲールの死に際を白と赤と緑に染めてくれた。
何もかもが、必然に向けての偶然だった。
うらんが美しすぎて、美しすぎて。
美しいものを作るってことが、演出家にとって、どれほどか大きい喜びだってことを認識した。
うーちゃん、ありがとう。
IN-4 幼い自分自身とのデュオ
演奏:西谷国登・ゑ川史子
ヴィヴァルディ作曲(1678年―1741年) ヴァイオリン協奏曲ト短調より
客席から、「かわい〜〜!」の声が飛び交いました。
9歳の国彦君(国登さんの本名)と、○○歳の国登君のデュオ。
さて、○○にはどんな数字が入るでしょう?
(わたしが西谷さんを、20代の青年と呼んだら、客席がどよめきました。ふふふっ。)
IN-5 決してやってこない開演を待つ踊り手の、踊らないダンス
(ミヒャエル・エンデ作「鏡のなかの鏡」より)
開演を待つダンサー:柳本雅寛
開演を待つピアニスト:伊藤靖浩
開演を待つヴァイオリニスト:西谷国登
開演を待つ俳優:若菜大輔
・G.エネスコ ヴァイオリンソナタ第3番第2楽章より
今回、わたしが一番最初に、「やりたい!」と目論み、深く深く妄想していた作品です。
「鏡のなかの鏡」も、ずっと長らく形にしたいと思い続けてきて、ようやく叶った。
マサとのリハーサルは、最高にエキサイティング。そして、センシティブ。
彼の体を追いかけ、彼の脳内の泡立ちを感じ、彼の心と体のバランスが寄り添ったり乖離したりするのを眺めるうち、わたしの中には、幾千もの言葉が生まれてくる。
マサの体は、言葉を呼ぶんですよ、本当に。
わたしの中に、果てしない物語が動き出す。
だって、エンデだものね。
わたしが最も幸せを感じたリハーサル、そして、本番。
エネスコの超絶技巧曲をこなしてくれた西谷さん、
B音連打に命を吹き込んでくれた伊藤君にも、感謝。
IN-6 ありふれた母と娘の話
作・出演:石丸さち子 作曲・演奏:伊藤靖浩
自分の作品なので、語りにくいのですが、
何より、伊藤靖浩さんの作ってくれた曲が素晴らしかった。
彼は、最初のリハーサルでわたしの語りを録音し、
まずそれを何度も聞いてイメージを作ってくれた。
語りで使っていたわたしの低い声をそのまま生かしたり、
暗くなりそうなところで敢えて笑ったりしていた部分を生かしたり、
振幅の激しいわたしの感情を、繊細かつ剛胆に、音楽に置き換えてくれた。
曲が生まれていく時間に、わたしは立ち会っていたけれど、それはそれは、魔法の時間だった。
わたしが、それをどこまで歌えたか……。
懸命でしたが、限界はあった、何しろ20年俳優を休み、歌を人前で歌った経験がほぼないわたしですから。
それでも成立していたと言っていただけたのは、今回伊藤さんとわたしで生んだ、歌自体の、心であり底力であると思います。
終演後のお客様の感想を聞いていると、心は伝わっていたようです。
3月にIN-Projectを結成してから、
「生きる喜び」の、伝道者みたいになってたわたしの、ひとまずの「結び」みたいな作品でした。危なっかしく強引な作品でしたが……届いたみたいです、客席に。
ありがとうございました。
IN-7 G.エネスコ ヴァイオリンソナタ第1番第3楽章
演奏:西谷国登・ゑ川史子
今回、わたしが一番聞きたかった曲です。
IN-Project Vol.2は、この曲、ありき、だった。
観客の皆さまは、この曲に何を感じてくれただろう?
わたしは、最初にこの曲に出会った時から、
1回1回の鼓動や呼吸、小さな喜びや哀しみが堆く積もって、
それが一気に流れ出す人生の時間のようなものを感じました。
あらゆる喜びと哀しみのフラッシュバック。
そして、回想するだけではなく、
1回1回の鼓動や呼吸を重ねて、人生は続いていく。
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いつもわたしを助けてくれる、
舞監、山本圭太さん、
照明、山口明子さん、
この二人の仕事も素晴らしかった。
本当に久しぶりに会った、
わたしの大事な友人であるオペラの演出家は、
わたしの作品を具現化するために存在してくれていた、
すべての出演者とスタッフに感動したと、終演後言ってくれた。
「貴女は、貴女の場所を見つけているんだね」と。
感謝。
わたしの聞きたかった音、見たかった風景を、
聞かせてくれた人たち、見せてくれた人たち。
感謝。
そして、劇場を出る時に、
わたしの手を握って、
感動を伝えてくれた、すべての人に。
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で、今回もまた、中川君から花束が。
わたしがちょっと参ってる時に、
本番中だというのに、早くから劇場入りして自主稽古している時に、
やってきてくれた花のメッセンジャー。
泣きました。
本番中は、出前に通るカウンターの前に置いておき、
パワーをもらいました。
今、我が家にやってきて、
小さな塊だったバラのつぼみは誇らしげにふくらみ、
緑色のつぼみだったユリたちは、白く世界に己を開いて、
強い芳香を放っている。
2回目の水切りをしたら、
どんどん勢いよくなっていく切り花たち。
今を生きる限りある命たち。
自分が忙しすぎて、
中川くんの記念コンサートにも行けなかった。
「ゲゲゲのげ」に行ったきりだ。
ああ、彼の歌が聞きたい。




