兄と弟。
谷賢一氏の参加するプロジェクトを観に行って、心ならずも、生まれて初めてアフタートークを聞いてしまった。(普通は絶対に聞かない、意地でも本編終わりで劇場を出てきたのに、今日は出損ねてしまった。)
ゲストは永井愛さんで(素敵な女性だ)、結果、聞いてよかったのは、永井さんが作品に出てくる「兄と弟」「兄貴分と弟分」に興味を持たれたという、何気ない会話だった。「日本の問題」という企画後の座談会の割には、当たらず障らずの会話の中で、そこだけがわたしには魅力的だった。
わたしは、弟の話ができない。
わたしには、弟の話をする資格がない。
弟がいるのに、弟とは、もう長い間会っていない。
会おうと思えば会えるところにいるのに、この20年で会ったのは二度だけかもしれない。
わたしは、ずっとずっと、弟を探しているのに、弟に出会えない姉だ。
弟分……と言えば、映画に出てきそうな兄貴と舎弟って感じの二人と、偶然出会って、公園で一晩過ごしたことがある。久しぶりに記憶がありありと蘇った。
ストリートシンガーと、そのファンの水商売少年。
でも、わたしから見ると、ひたすらに兄、ひたすらに弟。
兄がいて、兄を慕う弟がいた。
兄はことさら弟を大事にしていなかった。
だからこその、兄と弟だった。
2000年10月2日の日記が残っていた。
通し上演すると11時間かかる芝居の、名古屋公演の後のことだ。
わたしはくったくたに疲れて、俳優の宴席に呼ばれて飲んで、
あまりノレなかったものだからひたすら飲んで、酔って、先に帰った。
以下、我が記録。
3時過ぎに先に席をたち、ホテルを目指した。目指して歩いたも のの、方向感覚のないわたしは目的地に向かって歩くということが 苦手。ふらふら夜の街を徘徊しているうち、自分がどこにいるかわ からない。仕方なくタクシーに乗ったら、新米の運転手さんで、2 メーターほど走ったあげく、そのホテルは知らないと言う。納得の いかないままお金を払い、また知らない場所に降り立った。自棄に なって再び歩き始めた時、男の人に呼び止められた。わたしの顔に 「迷っています」と書いてあったのか。行き先を聞かれて、親切に も送ってくれると言う。とても悪い人には見えなかったので(わた しはこういう自分の勘を信じていて、間違った例しはない)話をし ながら夜なお明るい栄の街を歩き出す。 彼は栄の交差点のロイヤルホスト前で毎夜歌い続けているストリート ミュージシャンであるらしく、近くに止めてあった車からチラシな ど持ってきてくれて自己紹介をしてくれる。 「歌を聴く?」と聞かれ、「聴きたい」と答える簡単な流れで、ホ テルの前の公園に於いての深夜コンサートが始まった。コンビニで 仕入れたアイスクリームだのジュースだのカップラーメンだのを囲 んで。客はわたしのほかにもう一人。彼のファンであるらしい夜の 飲食店勤め風の男の子。黒いズボンに白のカッターシャツ。胸ポ ケットには赤と黒のボールペン。前歯が一本抜けている。ファンが 高じて彼の手伝いを仕事の後にしているらしく、「ピック!」 「ハープ!」「(カップラーメンに)コンビニで湯いれてくれ よ!」などといった言葉にかいがいしく応えている。彼がギターで イントロをかき鳴らし始めるたびに、「これ、好きなんすよ!」 と、まだ子供っぽい目を輝かせる。 風貌からロックを想像していたら、曲は真っ直ぐなフォークロッ ク。伸びのあるしゃがれ声に力があって、歌声にうるさいわたしが 満足して聴き始めた。水商売の外人ばかりが目立つ薄汚れた公園 だったけれど、彼が背負っていた噴水が時折水しぶきと音を立てて 噴き出し、ちょっと悪くなかった。 何曲くらい演奏してくれたのだったか。途中で心地よく地べたに 寝転がって聴くうち、浅い眠りに落ち、夢の中で、最近発売したCD のタイトルソングというのを聴いたのが最後だった。 夜が明けて。コンサートが終わると、ホテルの場所が分からないままに歩いて いたわたしのことを「さっき歩いてる姿、浮浪者みたいだったよ」 と彼は言った。「眠ってない顔してるし、疲れた顔してるし、行き 先知らずの歩き方してるし」とも。そして「そういう時はビタミンC をとった方がいいな」とコンビニに入り、青いミカンを買ってくれ た。
この夜のLiveは、一生忘れないだろう。
弟少年の、兄の歌を聴くときの目の輝きも。
キャップのないボールペンをさすから、黒と赤の線だらけになった、胸のポケット。
前歯なんでいれないんだよ?と突っ込むのを忘れさせる笑顔。
この子は、きっと兄貴といる時以外、笑わないんだろうなと思わせた。
一晩、わたしのことも甲斐甲斐しくお世話してくれた。
「ねえさん」と呼ばれた。
兄貴がこの一晩を過ごす女に選んだからか?
わたしは、一晩「ねえさん」だった。
甘酸っぱい想い出だ。
あの時の歌声、まだ忘れていなかった。
日記の最後に書いてあった名前を検索してみたら、
ちゃんとちゃんと、歌い続けてくれている。
旁月今日人さんという方だった。
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コメント
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私も探しています。
投稿: otouto | 2011年12月21日 (水) 19時06分