こころづくしの美しさ。
昨日、DVDで「オペラ座の怪人」を観ていて、
25周年を記念して祝う姿を届けるスタッフの仕事に、
「こころづくし」というとっても日本的な心を感じた。
誰が、何を求めているか、誰に、何を心をこめて差し出すか。
受け取った者のほころぶ姿を最大限に知って準備するプロたち。
秋の匂いを感じ始める少し前、
夏の盛りの終わるぎりぎりに、
一日だけ、海を見にいった。
いや、海を見にいったと言うよりは、
台本の推敲の場所を探していて、
海のそばの料亭を思いだしたのだ。
友人を通じて、知己となったばかりの渡邉映理子さんが三代目をつとめる、
日立の「三春」というお店。
いつか行ってみたいな、という気持ちが、
朝方突然動いて、思いついてすぐに連絡をとり、
電車に飛び乗った。
前日までに予約をしてくださいとHPに記してあったので、
ちょっとご迷惑かなと懸念しつつも、
思いつきを止められず。
夏の盛りに机にかじりついていたわたしを出迎えてくれたのは、
「こころづくし」だった。
よく来てくださいましたね、と吹き出しが浮かぶような笑顔。
案内してくださったのは、誰でも懐かしい気持ちになるような、
優しい畳の一間。
窓の向こうには……向こうというより、目の前に、海。
波の音が 窓を震わせ、ひっそり閑とした部屋の空気も震わせて、
部屋の中は、時計より波の音で時が刻まれる。
いるだけで、たくさんの記憶が甦ってくるようなお部屋だった。
そこで頂く、おもてなし料理のこころづくし。
朝採れたばかりの野菜を頂く、
丁寧な手仕事の均整とれた美しさを頂く、
選ばれた素材と素材の出会いを頂く。
時間をかけて仕込んだふくふくとした美味しさを頂く。
それらがお膳の上で描いたすっきりした絵を楽しむ。
窓の外の陽光が、部屋の中に作る陰と陽を楽しむ。
五感が、ぜんぶ、幸せになる。
自分の仕事でも、
心を尽くすことがどれだけ大事か、そして大変か、よく知っている。
知っているからこそ、
人から「こころづくし」を頂くと、
交わしあう笑顔の裏にある、涙とか忍耐とか食いしばった歯の力まで、
共有できるような気持ちになる。
こころづくしの仕事は美しい。
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