母の味。家族のつながり。
今日は私塾恒例、月一回のシェイクスピア群読日。
今月は「ヴェニスの商人」。
改めて読んでみると、アプローチの仕方が難しくって、
さあ、今日はどうなることやら?と稽古の進行のことを考えていたら、
女優Tが突然、
「石丸さん、わたし、今日、はじめて揚げ物したんです!」
と、実ににこやかに。
わたしは……え? え? それ、いきなり何の報告?…… と戸惑うと同時に質問。
「今まで揚げ物したことなかったってこと?」
「そうなんです、いつも母が揚げてくれていたので」
「え〜〜〜〜?」と、驚愕するわたしの前で女優Mが、
「わたしもない〜」とにこやかに。
と、調理師免許を持つ俳優Fが、
「お前らいい加減にしろよ」とわざと呆れてみせ、何を揚げたのか聞くと、
「冷凍の蟹コロッケです。美味しかった〜」
「しかも冷凍かよ!?」
でも、女優Tは、あくまでもにこやか、嬉しそう。
***
彼女は、最近、お母さまを亡くしたばかり。
お母さまがわたしと同い歳だったこともあり、
その早すぎる旅立ちに、胸を痛めた。
でも、彼女はとても元気で前向きで、
お母さまが好きだったレストランに出向いて、
母の好きだった味を制覇したいとFBで報告していたりする。
揚げ物って、今の女の子にとっては、
油がダイエットの敵だったり、
自分でやろうとすると、はねる油が怖かったり、
敬遠されるものかもしれない。
今までお母さまが作ってくれていた揚げ物を、
はじめて自分で揚げてみた、心の華やぎ。
お父さんや兄弟に、母の作っていたものを自分が作って、喜ばれる、
その喜びが自分の歓びになる。
……とってもよくわかる。
***
わたしの母は、2005年に大病して手術して、
それ以来、料理はできなくなった。
親不孝なわたしは東京で離れて暮らし、仕事ばかりしていて、
母のご飯は父が全部作ってくれている。
わたしは、でも、母に育てられたから、母の料理で育ってきたから、
寂しくなると、元気がなくなると、
母の味を自分で作る。
その味で育った自分を再確認する。
この間も、母のサンドイッチを作った。
いつも一緒に行った大衆市場の花田パンの食パン。
(ま、食パンは今は近くで買いますが……)
卵を薄焼きにして、キュウリを薄切りにして、
決めては辛子マヨネーズ。
正方形を、長方形と三角形二つに三等分して、
皿に盛る。
これが母のサンドイッチ。
電話をして、「この間ママのサンドイッチ作って元気出したよ〜」と報告すると、それだけで泣いちゃった、ママ。
***
食べ物は、身体を作る。身体を動かす。
同じものを食べて、その力でみんな動く。
家族って、血と血のつながりだけじゃなくって、
同じものを食べることでつながっていくものだと思う。
初めての揚げ物、万歳。
母のサンドイッチ、万歳。
離れていても、そうしてつながれるはず。
« 新しいはじまり。旅する術。 | トップページ | 稽古開始目前です。 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント