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2016年10月28日 (金)

▶新国立劇場にて「フリック」

新国立劇場にて「フリック」
あと2ヶ月どんな出会いがあるかわからないけれど、
本年度、個人的に暫定ベスト1。
昨年のベスト1がブロードウェイで観たThe Curious Incident of the Dog in the Night-Timeだから、やはりわたしは、こういう作品が好きなのだな。
時の操作と、原風景と、細やかな人間描写と、演劇的世界観のはっきりしたもの。

早めに劇場に入ったら、開演まで空舞台に釘付け。
同じく映画館が舞台だった「タンゴ・冬の終わりに」朝倉摂さんの美術を、昨夜さんざん目の裏に描いていた後だったので、あの映画館セットから目が離せませんでした。
朝倉さんの映画館が大胆な汚しで世界観を作っていたのに較べ、
「フリック」は、本物の強みでした。あれ、どこの劇場の椅子だろう? 汚しがないな、と思っていたら、明かりが入った瞬間にわかった。これは、本物の使用劣化、経年劣化、だって。

もう、その時点で、持っていかれてます。
わたしは、人の記憶が堆積する場所に弱いので。
劇場もそうだし、教会とかも、出会うたびに、入って、打ちのめされる。
奥村泰彦さん美術。MONOの方。初見。出会いたい。
赤い椅子が、最後一瞬、ナトリウム灯で照らされるのは、わかっていてもやられます。あの一瞬で、一生忘れない風景になる。

そして、戯曲。
ひたすらに、好き。好み。
時間の切り取り方。
物語などなくても、色濃く演劇的な時間の堆積。
記憶に揺さぶりをかけられる。
甘すぎず、辛すぎず、目線が上からでも下からでもなく、
あの世代のありのままを真っ直ぐ見てる。
ちなみに、わたしには、主役エイブリーの映画の趣味が、かつての自分にドンピシャ。
出してくる俳優のチョイスも全部、なるほど、納得、そうきたか!にこにこしちゃう。

俳優。
とにかくソニンがいい。
他者を演じることに、大きな恐怖心を持った末に、彼女が選ぶのはいつも大胆で勇気ある選択。
自分の心と体を揺さぶって、他人を演じるバランス感覚と勇猛果敢さは、今、他の追随を許さないものがあると、わたしは思ってる。
出会う役毎に発声ごと変えてくるので、出会う度に新鮮。
出る芝居、全部観たい。
木村了さんは、8月にTARO URADSHIMAで観ている。俳優って、一本観ただけじゃわからない。エイヴリーの映画愛への感情移入で、すぐにキャラクターを愛せた。
電話でのカウンセリングシーンがいい。とてもいい。
菅原永二さんは、彼の存在で、この作品が翻訳劇だってことを忘れさせてくれた。時間が経つほどに愛せた。これは素敵なこと。

NY初演の演出家は、FUN HOMEの演出家、SAM GOLDだったのね。ああ、悔しい。世界にはどれほど魅力的なクリエイターがいるんだ!!
嫉妬して、元気になる。
いい夜だ。

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