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2017年2月25日 (土)

▶稽古場最終日、そして母の四十九日。

今日は「Color of Life」稽古最終日だった。
どこまでも作品に誠実に、凄い集中力で、稽古毎に発見を重ねてくれた耕平君とAKANEさんに、敬意を表する。心から二人を愛している。
劇場に入ってからの調整は、信頼するスタッフたちとともに。
初日を迎えるための調整のすべては、わたしの心で決まる。
この作品を0から立ち上げたかつての自分と、現在の自分を信じて、勇気を持って、選んでいきたい。

そして今日は、母の四十九日法要の日でもあった。
親不孝なわたしとしては、父と弟にすべてをお任せした。

稽古場バラシがあるので、17時に終了。
稽古がうまくいった日はいつもご機嫌なわたしが、どうも落ち着かない。
何かスカッとする映画でも観て帰ろうと「ララランド」上映館に立ち寄ったが、なんと満席。
では本でも読もう!と、村上春樹氏の新作を買ったものの、ページを開く気にならない。まだ落ち着かない。

母との別れを、ちっとも乗り越えられないわたしがいる。その上、大好きだった友達も急に逝ってしまい。
ご自宅にお別れに行けたものの、お通夜にも告別式にも行けなかった。友達として恥じ入っている。

今年になってから、とんでもない忙しさで、いつも数本の仕事が頭の中にあった。稽古場にいる時、劇場にいる時は、目の前の作品のことだけ考えていられるので幸せだが、自宅での仕事は、追われ追われての日々で、息もつけなかった。
そんな中、よく、突然泣いた。
心の穴が埋められない。
いくら理屈や哲学で埋めようとしても無駄。
わたしみたいな人は、幾本かの作品の中で救われつつ時を重ねるしかないのだろう。自分が創るものでも。誰かが創ったものに足を運ぶのでも。

そして、演劇の現場で人と出会っている時は、
わたしの中からぐいぐい力が湧いてくる。
仕事に救われる。
_________

1月14日。
母危篤の報せを受け、会いに帰るべく支度をしている時に、訃報が届いた。間に合わなかった。
霊安室とかではなく、小さな病室に眠っていた母のところに辿り着いたとき、様々な段取りをしてくれていた父はおらず、母と二人きりだった。

二人きり。すっかり冷たくなっていたけれど、まだ肌に柔らかさの残る母に、たくさん触れることができた。
もう母はいなくなっているのに、そこにあるのは容れものに過ぎないのに、抱いたり、隣に寝たり、さすったり、母をめちゃくちゃに触りまくった。
触った心地を、体に残したかった。
父と弟が見ていたら、ものすごく怒ったに違いない。
そして、写真を撮った。母の隣に寝て、一緒に撮った。
もう最後だから。

写真は、もう血が巡りを止めた母の手と、ぐいぐい血が巡っているわたしの手。
母から娘へと、バトンを受け取った気がした。
「次に死ぬのはさっちゃんだよ」と。
そして、そのバトンを持ち続けるこれからの時間を、
大きな揺るぎない愛情で祝福されていると思った。
わたしには子供がいないから、バトンは渡すのじゃなく置くことになるのだろうけれど、もうね、思いっきり長いこと、バトンを持ち続けてやろうと思った。
目の前で眠っている母にはもう喜んでもらう術もないけれど、この世に生みだしてもらったからには、とっても素敵にバトンを持ち続けてやろうと思った。

そして、「ありがとう」を山ほど言った。

翌々日、再び帰省。告別式を訪れた。
母の顔はとってもきれいで、穏やかで、
わたしたちのために働いて働いて、明るく輝いていた頃の面影があった。
あんなに素敵に一生懸命生きた後に、何年も何年も、病気で苦しむ人生の理不尽を、わたしは最後まで受け容れられず許せず、天を恨んだけれど。
きれいな母は、頑張り抜いて、誇らしげにさえ見えた。
生きるって、過酷だな。
でも、闘い続けるしかない。

そして。
人生で誰より母を愛して、脇目も振らず母を愛し抜いた父の姿が、悲しくて、胸が捩れるかと思うくらい痛かった。
父と母が愛し合い続けた時間が目の前にぐいいいいいと音をたてて流れているようで、
父の哀しみの大きさをどんなに想像しても、
父という他人の歴史の中には踏みこめないと思った。

わたしの抱えている孤独が、ひとまわり大きくなった。

でも、今、わたしは、
孤独なんて言葉、棚にあげて忘れてしまうほど、
めまぐるしくたくさんの人と出会っている。
ありがたい。
それを人生の後半期においても、
青春期の貪欲さで育もうと思う。
新しい出会いに命を注ぎ、
かつて愛してくれた人たちの命に支えられて。

少し、書いて、落ち着いた。

初日は目の前。
いい仕事しなきゃ。

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